生徒や私の仕事を継いでくださる若いかたに。
「音楽」という命はたぶんそれを生んだ人間そのものよりも
大きな命なのかな・・と感じます。
私は多くの立派な師匠に恵まれてきました。
いつも身近に叱咤してくださる師がいました。
私がそのめぐまれた環境のなかに無駄に年を重ねるうちに
盛永宗興老師も遷化され。雷に打たれるように叱咤されることも
少なくなりました。これは決して自分が進歩したのではなく、叱ってくださる
師匠をうしなった、ただそれだけのことです。
師匠を失う悲しさを思うと同時に、
「自分はなにを教えられたのか?」を問います。
師匠達から教わったことはたぶん
「オマエが一人で歩む時に自分自身を師匠としてひとりで学べよ」
ということだったのかもしれません。
ま、そういうわけで、私が演奏したときはその録音を何度も聞き返して
点検をします。「なにを点検するか? 」ひとことでいうと
「嘘をついていないか?」ということでしょう。
本心にないことを話していないか? それを聞き返します。
ま、そういうわけで、2011年大津のコンサートをそのまま全部
聞き返すことにします。自分自身を「聞く」ひたすら「聞く」
「多聞」とか「観音」ですね。
ホールの響きはすこしガランとしています。客席に置いた簡易録画録音機ですので
音質はそれなり・・ですが、正しく映らない鏡はありません。
ひとりごともつぶやきます。他人に向かってするはずかしいトィッターとはちがう、
と言う程度の自負はあります。
●バッハ 前奏曲 Bach Prelude
フー先生に注意をしていただいたこと「速く弾いてはいけないよ」をまもろうと努力をしました。
しかし、可能な限り遅く弾こうとすると、
自分の心と音楽にポジティブフィードバックが起きて「作為」がうまれてしまうことに気がつかされます。
なにもしない演奏、いつか実現したいものです。
http://www.koube.jp/public/2011Shiga/PreludeShiga.mp4●バッハ リュート組曲二番 前奏曲 フーガ サラバンド ジーグ
ドゥブル Bach Suite pour lute Nr,2
この組曲を愛していますが片思いに破れることが多いのです。
本来はトラベルソとリュートの作品だろう思います。
ホ短調で演奏します(半音低い調律)。
永遠にくりかえされるうちに深い淵をみるフーガを実現したいのですが、
つい無駄なことをしてしまいます。媚や表情のすくない前奏曲、それはまだ実現できてはいないのですが、
きっと近いうちに実現できるようになりたいと念じています。
サラバンド、演奏していて「ああ美しいな」とだけ感じます。
http://www.koube.jp/public/2011Shiga/Lutesuite2.mp4自分の編曲に手を加えたので楽譜を置く、というみっともないことをしています。
●パガニーニ ギターの為の大ソナタ アレグロ ロマンス スケルツォと変奏 Paganini Grand Sonate
パガニーニのこのギターの作品のなかにわたしはバッハと同じほど大切なことを観ます。
馬鹿騒ぎ・・そのものではあるのですが、ほんとうの馬鹿騒ぎをしているときには、
なにかキラキラとした素朴な心が映るように感じます。
このパガニーニがなかなか弾けなかった二十歳のころ・・
ま、いまでも弾けないわけですが・・
パガニーニがなくなった部屋の隣を借りて数ヶ月住んでみたこともありました。
なにも進歩しなかったのですが。
http://www.koube.jp/public/2011Shiga/paganini.MP4ここまでの楽器、フランスのコッホ1830年製で、音律はバロティです。
●ファリァ 儚き人生の舞曲 Falla Spanish Dance
この一年、この曲を編曲し一人で弾く事を試みました。
ここからの楽器、平山照秋作 十九世紀ベッヒシュタインの響版をもった楽器で、
音律はナイトハルトの一番です。
フレットは黒い樹脂なので見えないわけです。
弦をつくってくれているのも、フレットを作ってくれているのも
偶然にも星野さん(別人)です。
http://www.koube.jp/public/2011Shiga/Spanish.mp4●ファリァ 恋は魔術師から火祭りの踊り Falla Fire dance
これも一年まえから編曲し、いろんなことを試しました。
初期にミンスクで演奏をしたときに、偶然フランスの師匠がきかれて
「オマエのはダンス・ド・フュー(火の踊り)ではなくて、ダンス・ド・フー(アホの踊り)だ」
そうなんですね。トリルが指が冷えていて240で四つを打つことができないと低音もそのまま遅くなってしまう・・
という実に子供っぽい事故を起こしたのです。で、考えました。トリルの速度が充分でなくとも、
低音は左手で弾けばよいじゃないか! 何歳になるまで240に四つのトリルをいれられんだろう?
と体育会系のことを考えてしまいます。
じつに幼稚な職人的な工夫を楽しんでいます。これも演奏家の側面だろうとおもいます。
http://www.koube.jp/public/2011Shiga/FireDance.mp4●四つの「夢」 震災の犠牲への追悼
タルレガ 二つの「夢」マズルカとトレモロ Tarrega 2 Reverie
うつくしい二曲です。二曲とも飾りのないうつくしい心の反映だと思います。
http://www.koube.jp/public/2011Shiga/RverieTarrega.mp4 シューマン 「夢」 Schumann Reverie
シューマンは好きです。この曲のうつろいと平凡な不安
まだ、なにもせずこの曲を演奏できる自信はありません。
ただ、こどもの頃の夢をそのままにたどるように演奏をしました。
この曲の編曲はタルレガです。それ以外は私による編曲です。
http://www.koube.jp/public/2011Shiga/reverieSchumann.mp4
フォーレ 「夢の後に」 単旋律 親指一本 Faure Reverie
私の一番好きな唄かもしれません。伴奏も一人で弾く編曲も書きました。
しかし、それはどうもわざとらしく好きになれなかった。
皆さんこの唄の和音はご記憶でしょうから、旋律だけを弾いて
和声は聴衆に補ってもらおう、と決心しました。
右手親指一本、低弦三本で弾く、というのはすこし怖いことですが、
自分を大きく見せたい、という低い心がなければ・・なんとかなるのでは。
いちばんの冒険で、最大にテクニックが必要なことです。
歌詞は
「夢の中にあなたの美しい姿があった、
ぼくの幸せの夢、燃え上がるまぼろし・・」
と始まります。
http://www.koube.jp/public/2011Shiga/ReverieFaure.mp4●松岡貴史「 Aura from the earth」 Takashi MATSUOKA
地面が光りだすような情景・・そりゃ自分がひかるなら一番よろしいが、
光りを吸収する能力はあります。
演奏のまえに「私は地面から匍い出してきた目に見えない虫だ」と
自身に暗示をかけます。調弦は変則で四分の一音を含みます。半数以上の音は
上駒がわの振動を用いています。ホールに響きが多かったので、
作曲者の松岡さんの意図より遅い演奏だとおもいます。
楽器は1830年のパノルモにがんばってもらいました。
しかも全部鉄弦です。鉄を擦るので薬指の爪は無くなりました。
http://www.koube.jp/public/2011Shiga/Aura.mp4以下はアンコール、、じつはすこし用意していたのですが((笑)
急に主催者がロビーで展示していた友人たちの新作楽器を使ってみてください、
との仰せで変更しました。
デパ地下の実演販売員のようなことですが、
正直に言うと、こういうことは(実演販売員)はキライではないのです。
私は弦長や幅が変ってもあまり気にならない演奏家ですし。
製作家は皆、一緒に歩んできた親しい友人たちです。
しかし、楽器ははじめて触ったものです。
最初にもうしますと、どの楽器もすばらしいレベルでした。
この友人たちは私が遊びほうけている間に、木と向かい合って
すばらしものをつくったんだな〜と感動しました。
勤勉に職人的に生きる智慧、演奏家もそうでなくては・・と反省。
早起き、ワインは日に一本まで・・と、誓ったことでした。
●大西達朗さんの トルレスモデル
トルレスだとアルハンブラでしょう。
薬指が使えないけれど、「p,i,m,i」でずぼらなトレモロにはなれているので実行。
昨年もこのような事故をして、コンサート後半を右手の中指なしで弾いたことがありました。
同じ失敗を繰り返すのはよくないことです。
低音にバズがあるのも私のせいで楽器の欠陥ではありません。
今回ヨーロッパ半音低いバイオリンのパガニーニを演奏するのでそれを試すために、
すべて半音低く調律していたのです。張力が落ちているのを初めての楽器なので計算できなかった。
弁解です。
艶やかな楽器です。ほんとうに使いやすい。
ただ次のCDにこの曲があるので、すみません途中までです(ほぼ全部ですが)
http://www.koube.jp/public/2011Shiga/OhnishiAlhambraOtsu2011.mp4●黒田義正さん ラコートモデル
ラコートというよりはとてもよくできたミルクールの感じです。
レブリカに現れる音の陰影の浅さ、がありません。
黒田さんがその場でリクエストされたのはヴィラロボス、この楽器で
それはにあわないでしょうし、今は薬指が使えない。
その次のリクエストがソルの月光、これなら三本だけで弾けるからうれしい。
この曲にしてよかった・・よく合っています。なにもする必要がない。
http://www.koube.jp/public/2011Shiga/kurodaMoonLight.mp4●田中清人さん ミルクール風かな?
裏の板は見た事のない不思議な板。見掛けは「さくい」音がしそうなのですが、
すこし私のコッホのように年増の屈折した音(褒め言葉です)
レブリカでここまで年増な楽器はすくないはずです。
二本指で弾けるはずのバッハです。
http://www.koube.jp/public/2011Shiga/TanakaAndante.mp4以上「他山のガレキ」でした。
MASANOBUアットマークKOUBE.JP
Masanobu NISIGAKI
追記
Windowsで データが開かない、と聞きます。
商売のためのサイトではないので
MP4 のデータはダウンロードしていただいてから
いちばん単純な方法は下のソフトでひらいてください。
http://www.videolan.org/vlc/